トランス脂肪酸は、加工食品に多く含まれる人工的な脂質で、LDL（悪玉）コレステロールを増やし、動脈硬化や生活習慣病のリスクを高めるとされています。WHO（世界保健機関）も摂取を抑えるよう勧告するなど、国際的にも注意が呼びかけられています。なぜこの脂質がこれほどまでに問題視されるのか。その理由をわかりやすく解説します。
トランス脂肪酸は、近年その健康への影響が世界的に問題視されている脂質の一種です。
本来、天然の植物油や魚油に含まれる不飽和脂肪酸の多くは「シス型」という分子構造をとっています。しかし、油脂の加工過程で人工的に「トランス型」へと構造が変化することがあり、このとき生成されるのがトランス脂肪酸です。
代表的な例としては、オレイン酸のトランス異性体であるエライジン酸が挙げられます。これらは主に、植物油や魚油に対して部分水素添加を行い、マーガリンやショートニングといった固形脂質を製造する過程で生成されます。
現在でも、焼き菓子、パン、冷凍食品、ファストフードなど、多くの加工食品に使用されていることがあります。
トランス脂肪酸が問題視される最大の理由は、その生体内での振る舞いが飽和脂肪酸に類似しながら、さらに深刻な健康リスクを伴う点にあります。
特に以下のような生理作用が報告されています。
☑ LDLコレステロールの上昇およびHDLコレステロールの低下
☑ 脂肪細胞における炎症性サイトカインの分泌促進
☑ インスリン抵抗性の増加
☑ 血管内皮機能の障害とそれに伴う酸化ストレスの亢進
☑ 動脈硬化や心血管疾患のリスク増大
こうした悪影響の蓄積が、生活習慣病やメタボリックシンドローム、さらには心筋梗塞や脳卒中といった疾患の背景に関わっていると考えられています。
そのため、世界保健機関（WHO）はトランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1％未満に抑えることを推奨しており、多くの国々が食品規制や表示義務化の方向に動いています。
海外の研究では、トランス脂肪酸を多く摂取している人々において、心筋梗塞などの冠動脈疾患のリスクが高まる可能性が報告されています。
一方、私たち日本人の平均的な摂取量は、これらの研究対象国と比べてはるかに少ないのが現状です（日本人のトランス脂肪酸の摂取量は総エネルギー摂取量の0.3％程度と言われています）。
現段階では、通常の食生活の範囲内でトランス脂肪酸が直接的な健康リスクとなる明確な根拠は見つかっていません。つまり、極端に偏った食生活をしていない限り、神経質になりすぎる必要はありません。
正しい知識を持ち、日々の食事をバランスよく整えること。それこそが、リスクを遠ざけ、安心を手に入れる最善の方法です。
トランス脂肪酸は、加工食品に含まれる見えにくい脂質で、LDLコレステロールの増加や動脈硬化のリスクを高めるとされています。WHOも摂取制限を勧告しており、トランス脂肪酸が多い食品の過剰摂取には注意が必要です。
私たち一人ひとりができる対策としては、食品表示の「部分水素添加油脂」「ショートニング」などの記載に注目し、なるべく摂取を控えることが挙げられます。また、調理油を選ぶ際には、精製度の高い植物油よりもオリーブオイルやえごま油など、トランス脂肪酸を含まない自然由来の油脂を選択することが望ましいでしょう。
日常に溶け込む油脂の質に意識を向けることが、長期的な健康維持に大きく貢献します。「見えない脂質」だからこそ、確かな知識と選択眼をもって、賢く向き合いたいですね。
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