
厚生労働省は2026年、加熱式たばこの成分や健康影響について、国内外の研究を整理した資料を公表しました。加熱式たばこのエアロゾルには、ニコチンや発がん物質を含む有害物質が検出されており、製品や成分によっては紙巻きたばこより量が多い場合もあります。一方、発がん性や一部の長期的な健康影響については、研究期間や疫学データが不足しており、現時点では判定できない項目も残されています。
ここで注意したいのは、「健康影響を判定できない」ことは「安全である」ことを意味しないという点です。本記事では、厚生労働省の資料をもとに、加熱式たばこの主流煙、受動喫煙、心血管系への影響、発がん性について、分かっていることと分かっていないことを分けて解説します。
1.厚生労働省は加熱式たばこをどう評価したのか
厚生労働省の受動喫煙対策専門委員会では、2025年11月から受動喫煙対策の検討が進められ、2026年5月には研究班による「加熱式たばこに関するこれまでの知見の整理」が示されました。その後も6月、7月と継続して専門委員会が開催されています。
今回の評価で重要なのは、加熱式たばこについて「健康影響がない」と判断したわけではない点です。
研究班は、加熱式たばこの使用と循環器疾患、ニコチン依存などとの関連を懸念する一方、発がん性や一部の呼吸器疾患、妊娠・胎児への影響については、現時点の研究だけでは十分に判定できないと整理しています。
つまり、すべての健康影響が明らかになった段階ではありません。しかし、知見が不十分であることを理由に、安全性が確認されたと解釈することもできません。
2.加熱式たばこにも有害物質は含まれている
加熱式たばこは、たばこ葉を燃焼させずに加熱し、発生したエアロゾルを吸入する製品です。燃焼を伴わないため、一部の燃焼由来成分は紙巻きたばこより少ない傾向があります。
一方、厚生労働省研究班の整理では、主流煙の成分量には製品ごとのばらつきがあり、発がん物質や非発がん物質の一部について、加熱式たばこの方が紙巻きたばこより多い場合があると報告されています。例として、ニコチン、フルフラール、水銀などが挙げられています。
また、発がん物質である4-アミノビフェニル、NNN、NNK、ベンゾ[a]ピレンについても、研究班は曝露に伴うリスクを検討しています。特にNNKとベンゾ[a]ピレンでは、肺がんとの関連が懸念されると整理されました。
したがって、「煙が見えにくい」「においが少ない」「燃やしていない」といった特徴だけで、健康への影響が小さいと判断することはできません。
3.心血管系とニコチン依存への影響
現時点で、加熱式たばこの健康影響として比較的強く懸念されているのが、心血管系への影響とニコチン依存です。
厚生労働省の資料では、能動喫煙による急性期の酸化ストレスマーカー、炎症マーカー、高血圧など、心血管系への影響が整理されています。また、ニコチンは心拍数の急速な増加との関連がみられ、心機能への影響が強く懸念されるとしています。
加熱式たばこは、ニコチンを含まない製品ではありません。厚生労働省の健康情報サイトでも、加熱式たばこには紙巻きたばこと同程度のニコチンが含まれることがあると説明されています。ニコチンには依存性があり、吸えない時間に生じる不快感が、再び使用する行動につながることがあります。
「紙巻きたばこから加熱式たばこに変更したから、ニコチン依存も解消された」とは限りません。健康状態を見直す際には、製品の種類だけでなく、ニコチンへの依存そのものを評価する視点が必要です。
4.加熱式たばこの受動喫煙は起こるのか
加熱式たばこでは、紙巻きたばこのように燃焼中のたばこから立ち上る煙は目立ちません。しかし、使用者が吐き出す呼出物や機器から発生するエアロゾルによって、周囲の人が化学物質へ曝露する可能性があります。
厚生労働省研究班は、加熱式たばこの副流煙に相当する排出物から、発がん物質であるたばこ特異的ニトロソアミン(TSNA)、フルフラール、ピリジンを検出しています。さらに、ニコチン、メンソール、2-フランメタノール、3-エテニルピリジンなども確認されました。
空気中への有害物質の発生と周囲の人への曝露については、研究班が懸念を示しています。呼吸器症状や心血管系への影響についても可能性が示唆されていますが、研究数が限られるため、エビデンスの確実性は高くありません。
影響を断定できない段階であっても、家庭や車内、子どもや患者がいる場所での使用には十分な配慮が求められます。厚生労働省も、家庭や自動車内を含め、望まない受動喫煙が起こらないよう配慮する必要があるとしています。
5.発がん性を「判定できない」とする理由
厚生労働省研究班は、加熱式たばこの使用と発がん性との関連について、現時点では「判定できない」としています。
これは、発がん物質が検出されていないという意味ではありません。実際には、加熱式たばこのエアロゾルから複数の発がん物質が確認され、腫瘍マーカー、遺伝子変化、DNAメチル化、尿中曝露マーカーなどを調べた研究も存在します。
一方で、がんの発症を主要な評価項目として長期間追跡した疫学研究は、現時点では確認されていません。加熱式たばこの普及から十分な年月が経過していないこともあり、「使用によって将来のがん発症率がどの程度変わるか」を直接評価できるデータが不足しています。
したがって、「発がん性が否定された」のではなく、発がん性を判断できるだけの長期データがそろっていないというのが正確な理解です。
6.「紙巻きたばこより少ない」と「安全」は違う
加熱式たばこを評価する際、「紙巻きたばこより有害物質が少ない」という説明だけが独り歩きすることがあります。
確かに、燃焼由来の一部の化学物質は、加熱式たばこの方が概ね低いと報告されています。また、尿中曝露マーカーを比較した研究では、加熱式たばこ単独使用者の一部のマーカーが紙巻きたばこ使用者より低かったという結果もあります。
しかし、比較対象が紙巻きたばこであることに注意が必要です。
有害物質への曝露量が紙巻きたばこより低いことと、非喫煙者と同等の健康リスクになることは同義ではありません。また、成分によっては加熱式たばこの方が多い場合があり、製品間の差もあります。長期的な疾患発症への影響も、十分に解明されていません。
健康情報を読む際には、「何と比較した結果なのか」「測定されたのは成分量か、病気の発症率か」を区別する必要があります。
7.科学的根拠を健康支援へ活かすために
今回の加熱式たばこに関する評価から学べるのは、結論だけではありません。
科学的根拠には、研究によって確かめられた部分と、まだ評価できない部分があります。研究が少ない、追跡期間が短い、対象者数が限られている、製品の種類が統一されていないなどの理由によって、明確な結論を出せないこともあります。
このとき必要なのは、知見が不十分な部分を推測で埋めることではありません。「現時点では分からない」と明確にしたうえで、すでに確認されている有害物質や依存性、心血管系への懸念を踏まえ、より安全性を重視した行動を選択することです。
栄養学や健康支援でも同じ姿勢が求められます。食品や栄養素に関する一つの研究結果を、すべての人へ一律に当てはめることはできません。対象、研究方法、比較条件、結果の大きさ、研究の限界を読み解き、一人ひとりの健康状態や生活背景に合わせて活用する必要があります。
加熱式たばこについて現時点で分かっていること
加熱式たばこのエアロゾルには、ニコチンや発がん物質を含む有害物質が存在します。成分によっては、紙巻きたばこより含有量が多い場合もあります。
心血管系への影響とニコチン依存については強い懸念が示され、周囲の人への有害物質の曝露も確認されています。
一方、発がん性や一部の長期的な健康影響は、疫学研究や追跡期間が不足しているため、現時点では判定できません。
「判定できない」は「安全である」という意味ではなく、「結論を出せるだけの科学的知見がまだそろっていない」という意味です。
科学的根拠を、実践できる知識へ
インターネットやSNSでは、「加熱式たばこは紙巻きたばこより安全」「この食品は健康に良い」「この栄養素は危険」といった、分かりやすい結論が拡散されやすい傾向があります。
しかし、健康に関する科学は、常に白か黒かで判断できるものではありません。研究によって分かった範囲を正確に理解し、まだ分かっていないことを分けて考える力が必要です。
栄養コンシェルジュ®は、栄養素の知識を覚えるだけの資格ではありません。医学、栄養学、代謝、消化吸収、運動生理学などを体系的に学び、科学的根拠を一人ひとりの健康支援へ落とし込む実践力を養います。
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参考文献
牛山明ほか.厚生労働行政推進調査事業費補助金 厚生労働科学研究事業.加熱式たばこに関するこれまでの知見の整理.2025年度研究報告資料.
厚生労働省.紙巻たばこ、加熱式たばこに関する知見について.第6回受動喫煙対策専門委員会資料.2026年6月17日.
厚生労働省.第5回受動喫煙対策専門委員会 議事録.2026年5月21日.
厚生労働省.受動喫煙対策専門委員会.2025年11月25日~2026年7月16日.
厚生労働省 健康日本21アクション支援システム.禁煙・世界禁煙デー.
※本記事は、厚生労働省の専門委員会資料および厚生労働科学研究の整理をもとに作成しています。加熱式たばこの長期的な健康影響には未解明の点があり、今後の研究によって評価が更新される可能性があります。
Q1.加熱式たばこは紙巻きたばこより安全ですか?
現時点では、加熱式たばこが紙巻きたばこより健康への影響が小さいと断定できる十分な科学的根拠はありません。一部の有害成分は紙巻きたばこより少ない一方、製品や物質によっては同程度または多い場合があります。長期使用によるがんや循環器疾患への影響を評価した疫学研究も不足しているため、「紙巻きたばこより安全」とは結論づけられていません。
Q2.加熱式たばこにも発がん物質は含まれていますか?
はい。加熱式たばこのエアロゾルからは、たばこ特異的ニトロソアミン類やベンゾ[a]ピレン、芳香族アミン類など、発がん性が懸念される物質が検出されています。ただし、有害物質が含まれることと、加熱式たばこの使用による将来の発がん率が確定していることは別です。がん発症を長期間追跡した研究が不足しており、発がんリスクの大きさはまだ評価できません。
Q3.加熱式たばこの発がん性が「判定できない」とはどういう意味ですか?
「判定できない」とは、発がん性が否定されたという意味ではありません。加熱式たばこは普及からの期間が比較的短く、使用者のがん発症を長期にわたって追跡した疫学研究が十分に蓄積されていないため、現時点では因果関係やリスクの大きさを判断できないという意味です。したがって、「発がん性の証拠が不十分」と「安全性が確認された」は区別して考える必要があります。
Q4.加熱式たばこでも受動喫煙は起こりますか?
はい。加熱式たばこの使用時には、使用者が吐き出すエアロゾルなどを通じて、ニコチンや発がん物質を含む有害な化学物質が室内空気中へ放出されます。紙巻きたばこより曝露量が少ない場合があっても、周囲の人への曝露がなくなるわけではありません。家庭、車内、飲食店などでは、子どもや妊婦、呼吸器・循環器疾患のある方を含め、望まない曝露を避ける配慮が必要です。
Q5.加熱式たばこにはニコチンが含まれていますか?
はい。たばこ葉を使用する多くの加熱式たばこにはニコチンが含まれており、製品によっては紙巻きたばこと同程度になる場合があります。ニコチンには依存性があり、心拍数や血圧の上昇など、心血管系への影響も懸念されます。紙巻きたばこから加熱式たばこへ変更しても、ニコチン依存そのものが解消されるとは限りません。
Q6.栄養コンシェルジュ®は一般的な栄養資格と何が違いますか?
栄養コンシェルジュ®は、栄養素や食品の知識を覚えるだけではなく、消化吸収、エネルギー代謝、身体機能、生活背景を関連づけ、一人ひとりに適した栄養提案へ落とし込む実践型資格です。画一的な食事法を当てはめるのではなく、対象者の目的や行動、生活環境まで踏まえて、継続可能な支援を組み立てる力を重視しています。
Q7.栄養コンシェルジュ®では、研究や健康情報の読み解き方も学べますか?
栄養コンシェルジュ®では、研究結果の結論だけを覚えるのではなく、研究対象、比較条件、評価項目、研究期間、限界を整理して考える姿勢を重視しています。一つの論文やSNS情報をすべての人へ当てはめず、科学的根拠を現場でどこまで活用できるのかを判断し、分かりやすく伝えるための土台を身につけます。
Q8.食品カテゴリーマップ®とは、どのような栄養ツールですか?
食品カテゴリーマップ®は、食品を主な成分や身体での役割に応じて7つのカテゴリーに整理し、目的に合わせた食品選択を分かりやすくする実践ツールです。食品を「良い・悪い」で決めつけるのではなく、何を、どの程度、どのように組み合わせるかを考えられるため、栄養指導や健康教育、日常の食事管理に活用できます。
Q9.管理栄養士や医療従事者でなくても栄養コンシェルジュ®を受講できますか?
はい。栄養や医療の国家資格を持っていない方も受講できます。管理栄養士や医療従事者に加え、パーソナルトレーナー、ヨガ・ピラティスインストラクター、保育士、介護職、教育関係者、会社員など、幅広い分野の方が学んでいます。専門用語を体系的に理解し、日常や仕事で活用できるよう設計された講座です。
Q10.栄養コンシェルジュ®を取得すると、どのような仕事に活かせますか?
栄養コンシェルジュ®で学ぶ知識と提案技術は、スポーツ・ボディメイク、健康づくり、保育、介護、教育、企業の健康支援など、幅広い場面で活用できます。単に食事内容を伝えるのではなく、相手の目的、身体状況、生活習慣に合わせて、実行しやすい選択肢を提示できることが、現場での大きな強みになります。
栄養コンシェルジュ®のカリキュラムは、医学博士、医師、管理栄養士、調理師、臨床検査技師、臨床心理士、オリンピックメダリストなど、多分野の専門家が「現場で本当に役立つ栄養学」を目指して共同開発しました。知識の習得だけでなく、一人ひとりに合わせた実践力を養うことを重視している点が、多くの専門職から支持される理由の一つです。
栄養コンシェルジュ®は資格取得後も年会費・更新費が無料です。毎月の無料サロンで学んだ内容の復習、現場での疑問や悩みの共有・相談、 最新の栄養情報や考え方のアップデートができます。 資格を「取って終わり」にせず、学び続けられる・つながり続けられる環境として、多くの取得者に活用されています。
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日本栄養コンシェルジュ協会理事であり、北京オリンピック男子4×100mリレー銀メダリストの朝原宣治さんも栄養コンシェルジュ®を取得されています。競技生活で培われた経験に加え、栄養学を学び続けるその姿勢は、多くのアスリートやスポーツ指導者にとって大きな刺激となっています。現在では、競技力向上やコンディション管理を目的に、アスリートはもちろん、選手を支えるトレーナーやご家族などにも学びの輪が広がっています。
食品カテゴリーマップ®は、一般社団法人 日本栄養コンシェルジュ協会が開発した公式ツールです。 食品を「最も多く含まれる栄養成分」によって7つのカテゴリーに整理し、難しい栄養学をシンプルに理解できるよう設計されています。
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