パーソナルトレーニングで注意すべき短期減量の落とし穴 最新研究で読むケトジェニックダイエットのリスク

パーソナルトレーニングで注意すべき短期減量の落とし穴 最新研究で読むケトジェニックダイエットのリスク

短期的な体重減少に注目されるケトジェニックダイエットだが、最新の研究はその効果が限定的であり、むしろ長期的な健康リスクの方が大きい可能性を示している。ヘルスケアやコンディショニングなどパーソナルトレーニングにおける食事指導において、科学的根拠に基づく判断が求められる。

ケトジェニックダイエットの代謝メカニズム

ケトジェニックダイエットとは、炭水化物を極端に制限し、脂質を多く摂取する食事法である。ケトーシスと呼ばれる代謝状態を誘導し、体脂肪からエネルギーとして「ケトン体」を得るのが特徴だ。

長期間の断食時に起こる体の変化に似ており、脂肪燃焼を促進することで体重減少を起こす方法である(Crosby, L. et al. Front. Nutr. 2021, 8, 702802.、Longo, R. et al. Nutrients 2019, 11, 2497.)。

最新研究が示すリスクと限界

最新のメタ解析では、ケトジェニック食は低脂肪食と比較して体重減少効果に大きな差がないことが示されている。

超低炭水化物のケトジェニック食(糖質量50g/日以下、または糖質比率10%以下)は、低脂肪食に比べて減量効果の差はわずか0.91kgであった(Bueno NB et al. Br J Nutr. (2013) 110:1178–87.)。

ランダム化クロスオーバー比較試験では、平均年齢29.9歳、平均BMI27.8 kg/m 2の体重が安定した成人20名を対象に、ケトジェニックダイエット(エネルギー76%が脂肪、10%が炭水化物)と低脂肪ダイエット(炭水化物75%、10%が脂肪)のダイエット効果を検証したところ、どちらの食事療法も体重減少を引き起こし、ケトジェニックダイエットでは1.77 ± 0.32 kg(p < 0.0001)の減少 、低脂肪ダイエットでは1.09 ± 0.32 kg( p = 0.003)の減少であった。しかし、ケトジェニックダイエットで減少した体重のほとんどは除脂肪体重によるものだった(Hall KD et al. Nat Med. (2021) 27:344–53.)。

つまり、ケトジェニック食では筋肉量の減少が目立ち、トレーニング成果を損なう恐れがある。

ケトジェニックダイエット中の栄養素の偏りのリスク

ケトジェニックダイエット中の食事内容は、通常、果物、野菜、全粒穀物、豆類の摂取が減り、代わりに肉や動物性食品が増える。その結果、ビタミン・ミネラル・食物繊維・フィトケミカル(抗酸化物質)などの摂取不足につながる(Freedman MR et al. Obes Res. (2001) 9(Suppl. 1):1s−40s.)。

加えて、腸内環境の悪化、腸粘膜のバリア機能低下が起こるリスクも報告されている(Daïen CI et al. Front Immunol. (2017) 8:548.)。

持久系アスリートでは、数週間のケトジェニック食で骨の健康指標が悪化することが報告されている(Heikura IA et al. (2020) 10:880.)。

パーソナルトレーニングで取るべき実践的対応

スポーツやヘルスケアにおけるパーソナルトレーニングには、流行や短期的な成果に惑わされず、クライアントの長期的な健康維持を最優先することが求められる。

筋量維持と体脂肪減少を両立するには、たんぱく質の確保と食物繊維、ビタミン、ミネラルの豊富な食事が必要だ。

極端な糖質制限ではなく、運動と組み合わせたバランスの良い食事が、最も効果的かつ持続可能な戦略である。

栄養学の知識はパーソナルトレーニングにおける武器

ケトジェニックダイエットは確かに一時的な体重減少をもたらす可能性がある。しかし、その背後に潜むリスクと限界を理解せずに指導することは、クライアントの健康を損なうことになりかねない。

科学的根拠に基づいた食事指導を行うためには、栄養学を体系的に学び、知識を武器として現場で活用することが求められる。

岩崎真宏

一般社団法人日本栄養コンシェルジュ協会

岩崎真宏

博士(医学)、管理栄養士、臨床検査技師
一般社団法人 日本栄養コンシェルジュ協会 代表理事、ベジタブルテック株式会社代表、一般社団法人煎茶道黄檗売茶流 教授。
医学研究者ならびに病院管理栄養士として国内外での学会で医学・栄養学の研究発表、論文発表など多くの実績を持つ。栄養学を専門に健康管理や疾病予防、スポーツのための効果的な栄養サポートを提案し、北京五輪銀メダリスト 朝原宣治氏をはじめ、医師、管理栄養士とともに栄養に関する指導者・教育者育成と活動支援を行う。ヘルスケア産業、アスリート支援、農業と就農支援、地域活性化に取り組む。日本病態栄養学会アルビレオ賞(2014年)、日本体質医学会若手研究奨励賞(2014年)NEXTプログラム・オブ・ザ・イヤー2016最優秀賞(2017)、経済産業省主催 次世代イノベーター育成プログラム「始動Next Innovator」シリコンバレー選抜(2018)。著書に『野菜は最強のインベストメント-投資-である(フローラル出版)』。Youtubeチャンネル『岩崎真宏7ch(ななチャン)』主宰。

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