
利用者さんも「流行ダイエット」の情報にさらされている
テレビ・SNS・雑誌などを通じて、介護施設や在宅の利用者さん・ご家族にも「ケトジェニックダイエット」「糖質オフ」といった言葉が届く時代です。
しかし、高齢者では
・筋肉量の低下(サルコペニア)
・フレイル(心身の虚弱)
・多くの持病や服薬
・脱水や低栄養のリスク
を抱えており、若い人向けのダイエット情報をそのまま当てはめるのは非常に危険です。
本記事では、介護士として知っておきたい
・ケトジェニックダイエットの仕組み
・低炭水化物食との違い
・高齢者で問題になりやすいリスク
・現場での観察ポイントと専門職へのつなぎ方
を、できるだけわかりやすく整理します。
ケトジェニックダイエットは、炭水化物(ご飯・パン・麺・果物など)を極端に減らし、脂質を主なエネルギー源にする食事法です。
・炭水化物:1日20〜50g程度に制限
・脂質:総エネルギーの70〜80%
・たんぱく質:必要量は確保
体は通常、糖質を主なエネルギー源にしていますが、糖質が極端に少なくなるとケトーシス(脂肪を分解してケトン体を主なエネルギーにしている状態)になり、脂肪燃焼が進みやすくなります。
一般成人では
・体重が比較的早く落ちやすい
・食欲が抑えられることがある
などのメリットが報告されていますが、頭痛・倦怠感・脱水・便秘などの初期症状が出ることも多く、医師や管理栄養士の管理下で行うべき食事法です。
「糖質を少し減らす」レベルの低炭水化物ダイエットは、ケトジェニックほど極端ではありません。
・炭水化物:1日50〜130g程度
・糖質ゼロではなく、量をコントロール
・たんぱく質と脂質をバランスよく増やす
こちらは
・食材の選択肢が多い
・社会的な食事(外食・家族との食事)に対応しやすい
・長期的に続けやすい
といった利点があります。
ただし、高齢者の場合はそもそも食事量が少ない、噛みにくい、飲み込みにくい、慢性疾患が多いなどの理由から、糖質制限自体を慎重に考える必要があります。
3-1. 低栄養・サルコペニア・フレイルの悪化
高齢者では、体重が減った=成功とは限りません。過度な糖質制限は
・総エネルギー不足
・たんぱく質の不足
につながりやすく、
・筋力低下(サルコペニア)
・歩行スピードの低下
・転倒・骨折リスクの増加
・フレイルの進行
を招きます。
すでにやせ気味、食が細い、持病が多い高齢者にダイエットは原則不要であり、むしろ「いかに食べてもらうか」が最優先です。
3-2. 便秘・脱水・電解質異常
ケトジェニックや厳しい糖質制限では
・ご飯・果物・芋類・一部の野菜が減る
→ 食物繊維と水分が不足しやすい
結果として
・便秘
・腹部膨満感
・食欲低下
・脱水、電解質(ナトリウム・カリウムなど)の乱れ
が起こりやすくなります。
高齢者はもともと
・喉の渇きを感じにくい
・意識して水分をとらない
という特性があるため、脱水や便秘から体調を崩しやすいことに注意が必要です。
3-3. LDLコレステロールと心血管リスク
高脂肪食では、
・LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が上がる人
が一定数います。
LDLコレステロール(悪玉)が高い状態が続くと、
・動脈硬化
・心筋梗塞や脳梗塞などのリスク
が高まる可能性があります。
特に、
・すでに脂質異常症
・心疾患の既往歴
・動脈硬化が疑われる人
では、ケトジェニックのような高脂質食は必ず医師の判断が必要です。
3-4. 糖尿病・腎臓病など慢性疾患を持つ方
高齢者は複数の慢性疾患を抱えていることが多く、以下のようなリスクがあります。
・糖尿病
・急激な炭水化物制限で低血糖を起こす危険
・内服薬やインスリンとの調整が必要
・腎臓病
・高たんぱく質食が腎臓に負担をかける可能性
・高血圧・心不全
・塩分・水分バランスの調整が特に重要
このような利用者さんが食事法を変える場合は、必ず主治医や管理栄養士と連携し、介護職だけで判断しないことが重要です。
脂質は
・満腹感を保つ
・ホルモンの材料になる
・脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収に必要
という大切な役割があります。
一方で、脂質なら何でも良いわけではありません。
良い脂質:
・オメガ3脂肪酸(青魚、亜麻仁油など)
・オリーブオイル、ナッツ類に含まれる一価不飽和脂肪酸
注意したい脂質:
・トランス脂肪酸(ショートニング、マーガリンなど)
・加工肉、揚げ物の摂りすぎ
総エネルギーの20〜35%程度を脂質から、その中でも不飽和脂肪酸を多めにというバランスが、一般的には望ましいとされています。
高齢者では、油っぽすぎる食事は胃もたれ・食欲低下の原因にもなります。
低炭水化物・ケトジェニックでは、わかりやすい炭水化物を減らした結果として食物繊維(腸をきれいにする成分)不足になりがちです。
高齢者で食物繊維が不足すると、
・便秘
・食欲低下
・認知機能の低下との関連も指摘されている腸内環境の悪化
が問題になります。
意識して増やしたい食品例
・葉物野菜・根菜(噛みやすく・飲み込みやすく調理)
・きのこ・海藻
・大豆製品
便が硬い方には、水溶性食物繊維を多く含む食品(オートミール少量、りんご、プルーンなど ※糖尿病の方は量に注意)
「糖質を減らす」よりも先に、食物繊維をしっかりとる視点が高齢者では非常に重要です。
制限食では、特定の栄養素が不足しやすくなります。
その補完としてサプリメントを使うことがありますが、高齢者では特に注意が必要です。
・薬との相互作用(ワルファリンとビタミンKなど)
・腎機能低下時のミネラル過剰
・サプリの飲みすぎによる胃腸トラブル
介護士としてのポイント
・利用者さんが「市販のサプリ」を自己判断で飲み始めていないか確認
・新たなサプリを飲み始めたタイミングと体調変化(下痢、便秘、食欲不振など)をメモ
・気になる場合は、必ず看護師・管理栄養士・主治医へ情報共有
7-1. 情報を整理し、「極端なダイエットは危険」と伝える
・「テレビで見たから、糖質を全部抜く」
・「ご飯は悪いから食べない」
こうした言葉が出たら、
・高齢者には低栄養・転倒・入院のリスクがあること
・主治医や管理栄養士と相談してから食事を変えるべきこと
を、やさしく伝えましょう。
7-2. 観察しておきたいチェックポイント
・体重の急な減少(短期間で2〜3kg以上)
・食事量の低下(残飯が明らかに増えた)
・便の状態(便秘・下痢の継続)
・ふらつき・転倒
・表情・意欲の低下
・浮腫(むくみ)や息切れ
これらは食事内容の変化が影響している可能性もあるため、気づいた時点で記録し、看護師や管理栄養士に共有すると、早期対応につながります。
ケトジェニックダイエットや糖質制限は、一般の成人にとっては「うまく使えば選択肢の一つ」になり得ますが、高齢者にそのまま当てはめるのは極めて危険です。
すでに食事量が少なく、筋肉量も減りやすく、持病や薬も多い高齢者では、極端な食事制限は低栄養・サルコペニア・フレイル・転倒・入院につながりかねません。
介護士に求められるのは、「やせさせる」ことではなく、その人らしい生活を支える栄養状態を守ることです。もし利用者さんやご家族から流行のダイエットについて相談を受けたら、「まずは主治医や管理栄養士に相談しましょう」とつなぎ、そのうえで介護職としては食事量・体重・便通・意欲・歩行状態を丁寧に観察し、変化をチームで共有することが大切です。
栄養学を学ぶことは、介護現場での「なんとなく心配」「何となく大丈夫そう」という感覚を、根拠を持った判断に変えてくれます。栄養コンシェルジュ®のような講座では、ケトジェニックや糖質制限といった流行情報を、高齢者や慢性疾患を持つ方にどう当てはめるか、どこで線引きをするかを体系的に学ぶことができます。
「食べる」を守る知識と視点は、利用者さんの命と生活の質を守る力そのものです。日々のケアの質をもう一段高めたいと感じている介護士の方は、ぜひ栄養学の学びを深めてみてください。
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