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2026年2月、東京都豊島区役所内の飲食店で提供された弁当や食事を摂取した職員が、下痢や腹痛などの症状を訴えたことが報道されました。調査の結果、一部の患者からウエルシュ菌(Clostridium perfringens)が検出されたと発表されています。
ウエルシュ菌による食中毒は、今回が特別な事例ではありません。学校給食、仕出し弁当、事業所食堂、福祉施設、さらには家庭での煮込み料理(いわゆる「2日目のカレー」)など、同様の構図の事例が過去にも繰り返し報告されています。
本記事では、なぜウエルシュ菌食中毒がなくならないのかを、菌の特性・調理工程・温度管理の観点から整理します。
ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)は、
・土壌
・ヒトや動物(牛・鶏など)の腸管
・食肉・魚介類
に広く存在する偏性嫌気性の芽胞形成菌です。
特定の環境に限らず、日常的に食品へ付着しうる細菌であることが、国立感染症研究所の資料で示されています。
ウエルシュ菌の最も重要な特徴は、芽胞(spore)を形成する点です。
芽胞とは、高温・乾燥・栄養不足などの不利な環境条件下でも生存できる耐久構造を指します。
厚生労働省および国立感染症研究所の資料では、通常の加熱調理では芽胞が完全に死滅しない場合があることが明記されています。
ウエルシュ菌食中毒の主な発生要因は、調理後の温度管理にあります。
芽胞の状態で生き残った菌は、加熱後、食品がゆっくり冷却される過程で発芽し、増殖を開始します。
国立感染症研究所によると、ウエルシュ菌が増殖しやすい温度帯は、約20〜50℃ とされています。
大量調理の現場では、
・大鍋での調理
・カレーやシチューなど粘度の高い料理
・食品中心部が冷えにくい構造
といった条件が重なります。
その結果、食品中心部が20〜50℃の温度帯に長時間とどまる可能性が高くなります。
これは、調理者個人の不注意ではなく、物理的・構造的に起こりやすいリスクです。
ウエルシュ菌が増殖しても、
・味
・におい
・見た目
に、ほとんど変化が現れません。
そのため、見た目や味は問題ないが、食後に症状が出るというケースが多く報告されています。
国立感染症研究所によると、
・潜伏時間:約6〜18時間
・主症状:下痢、腹痛
・発熱・嘔吐:比較的少ない
とされています。
症状が軽度の場合、食中毒として認識されず、原因が特定されないケースもあります。
公的機関が示している対策は以下の通りです。
① 調理後は速やかに喫食
・長時間、室温に放置しない。
② 保存する場合は急速冷却
・小分けにする
・浅い容器に移す
・冷却効率を高める配置を行う
③ 再加熱に過信しない
再加熱で増殖中の菌は減らせても、芽胞を完全に無効化することは困難です。
重要なのは、「殺菌」よりも「増殖させない管理」です。
ウエルシュ菌食中毒は、
・飲食店
・給食施設
・家庭
いずれでも起こり得ます。
「プロの現場だけの問題」ではなく、調理・保存・冷却という工程を共有する限り、共通のリスクが存在します。
ウエルシュ菌食中毒は、
・珍しい事故ではない
・仕組みを理解すれば防げる
という特徴を持っています。
経験や感覚ではなく、菌の特性と温度管理を理解することが、再発防止の鍵となります。
【参考にした一次情報】
厚生労働省:ウエルシュ菌による食中毒
国立感染症研究所:病原微生物検出情報
農林水産省:大量調理施設における食中毒防止対策
※将来の発生率低下や完全な防止策については、現時点で確認できる信頼性のある情報は存在しません。
Q1. 十分に加熱しても安全とは限らないのですか?
はい。ウエルシュ菌は芽胞を形成するため、通常の加熱調理で芽胞が残存する可能性があります。
Q2. 再加熱すれば問題ありませんか?
再加熱で増殖中の菌は減らせますが、芽胞を完全に除去することは困難です。そのため、冷却・保存段階での管理が重要です。
Q3. なぜ「2日目のカレー」がよく話題になるのですか?
粘度が高く、大鍋や鍋のまま冷却されやすいため、中心部が危険温度帯(20〜50℃)に長く留まりやすいからです。
Q4. 味やにおいで判断できますか?
できません。ウエルシュ菌は、味・におい・見た目に変化をほとんど起こさないとされています。
Q5. 家庭でも起こりますか?
はい。鍋のまま冷却する、大きな容器のまま冷蔵庫に入れるなどの条件が重なると、家庭でも発生する可能性があります。