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私たちが毎日口にする食事は、脳の働きとどのようにつながっているのでしょうか。
2026年9月、東京科学大学などの研究グループが、高脂肪・高カロリー食によって認知機能が低下する仕組みの一つを、マウスを用いた実験で明らかにしました。
研究で注目されたのは、神経細胞の働きを支える「PQBP1」というたんぱく質です。高脂肪・高カロリー食を与えたマウスでは、このPQBP1が減少し、神経細胞同士の情報伝達に関わる「シナプス」に異常が生じていました。さらに、その仕組みに働きかけることで、シナプスの障害や認知機能の低下が改善することも確認されました。
今回の発見は、食事と脳の関係を分子レベルで理解するための新たな手がかりとなるものです。
一方で、マウスで確認された結果を、そのまま人間の食生活に当てはめることはできません。また、カロリーの高い食品そのものが認知機能に悪影響を及ぼすと結論づけることも適切ではありません。
では、食事の違いによって脳の中では何が起きていたのでしょうか?
今回の研究成果をもとに、認知機能と栄養の関係を考えていきます。
1.高脂肪・高カロリー食と認知機能の関係
肥満や糖代謝異常と認知機能の関係については、これまでも多くの研究が報告されています。高脂肪食によるインスリン抵抗性、神経炎症、ミクログリアの活性化、シナプス機能の変化などが、脳機能に影響する仕組みとして検討されてきました。
しかし、食事条件の変化が神経細胞の内部でどのような分子の異常を引き起こし、最終的に認知機能の障害につながるのかについては、十分に解明されていない部分がありました。
2026年9月12日、東京科学大学などの研究チームは、国際学術誌『Molecular Psychiatry』に「PQBP1-dependent alternative RNA splicing underlies high calorie diet-induced cognitive impairment」を発表しました。
この研究の特徴は、脳内の炎症や全身の代謝異常だけでなく、神経細胞そのものに生じる変化を詳しく解析したことです。
特に、遺伝子の情報からたんぱく質を作る過程に関わるPQBP1という分子が、食事とシナプス機能を結びつける重要な因子として示されました。
2.マウス実験で確認された脳の変化
研究チームは、通常食を与えたマウスと、高脂肪・高カロリー食を1週間または6週間与えたマウスを比較しました。
高脂肪・高カロリー食を与えた群では、体重、血糖値、血中インスリン濃度の上昇が確認されました。また、大脳皮質ではPQBP1の遺伝子発現とたんぱく質量が低下していました。この変化は、1週間の摂取群でも認められています。
神経細胞の構造を調べた実験では、樹状突起スパインの減少など、シナプスに関係する変化が観察されました。さらに、神経伝達の機能解析から、興奮性シナプスだけでなく、抑制性シナプスにも障害が生じることが示されました。
興奮性と抑制性の神経伝達は、脳の神経回路が適切に働くために必要な仕組みです。
重要なのは、今回の研究が、単に認知機能の低下を観察しただけではないことです。神経細胞の構造、遺伝子発現、RNAの処理、神経伝達、認知機能という複数の側面から、その関係が検討されています。
なお、1週間で分子やシナプスの変化が確認されたことと、人間の認知機能が1週間で低下することは、明確に区別する必要があります。
3.PQBP1とは何か|RNAスプライシングとシナプスの関係
PQBP1は「Polyglutamine Binding Protein 1」の略称で、RNAスプライシングなどに関わるたんぱく質です。
RNAスプライシングとは、DNAから転写されたRNAを加工する過程の一つです。遺伝子の情報が適切に利用され、必要なたんぱく質が作られるために重要な役割を果たします。
一つの遺伝子から異なるRNAを作り分ける「選択的RNAスプライシング」によって、細胞は機能の異なるたんぱく質を生み出すことができます。
今回の研究では、高脂肪・高カロリー食によってPQBP1が減少すると、シナプスに関連する複数の遺伝子でRNAスプライシングのパターンが変化することが示されました。
特に注目されたのが、CASK、Cacnb1、Cyfip2、Syt1などの遺伝子です。これらは、シナプスの構造や神経伝達物質の放出などに関係しています。
研究チームは、こうした分子の変化がシナプス機能の障害につながることを、神経細胞を用いた実験などで検証しました。
つまり、PQBP1は神経伝達物質を直接放出する分子ではなく、神経細胞の情報伝達に必要な分子が適切に作られる仕組みに関わっているのです。
4.インスリンとPPARγが関与する分子メカニズム
今回の研究では、PQBP1の発現が減少する上流の経路も解析されています。
その中心となるのが、インスリン関連シグナルとPPARγです。
PPARγは、脂質や糖の代謝に関係する遺伝子の発現を調節する転写因子として知られています。今回の研究では、PPARγがPQBP1遺伝子の発現調節にも関わることが示されました。
高脂肪・高カロリー食を与えたマウスでは、血中インスリン濃度が上昇し、インスリン関連シグナルの下流にあるMEK–ERK経路などを介して、PPARγの転写機能が抑制されていました。
その結果、PQBP1の発現が減少し、シナプス関連遺伝子の選択的RNAスプライシングに異常が生じるという経路が示されています。
ここで注意したいのは、インスリン自体が有害であるという意味ではないことです。インスリンは血糖調節や栄養素の代謝に欠かせないホルモンであり、今回問題となったのは、特定の実験条件下で生じたシグナル伝達の変化です。
食事条件の変化が、ホルモンのシグナル伝達を介して神経細胞の遺伝子発現に影響する。
この関係を分子レベルで示したことが、本研究の重要な知見の一つです。
5.シナプス障害は改善できるのか|薬剤・遺伝子導入の研究結果
研究チームは、明らかになった分子経路がシナプス障害の原因に関与しているかを検証するため、回復実験を行いました。
その一つが、PPARγの働きを高める薬剤「ピオグリタゾン」を用いた実験です。ピオグリタゾンは、2型糖尿病の治療に使用される薬剤です。
高脂肪・高カロリー食を与えたマウスに対して、この薬剤を使用したところ、PQBP1に関連する分子の異常やシナプス機能の障害が改善しました。
さらに、アデノ随伴ウイルス(AAV)を利用してPQBP1や関連分子の発現を補う実験でも、シナプス機能や認知機能の障害に改善が認められました。
これらの結果は、PQBP1を中心とする分子経路が、観察された脳機能の変化に実際に関与していることを支持しています。
ただし、薬剤の作用は一つの分子だけに限定されるとは限りません。また、遺伝子導入による改善は、臨床で安全に実施できる治療法が確立したことを意味しません。
今回の成果は、将来の治療標的を検討するための基礎的な知見として評価することが適切です。
6.アルツハイマー病への応用と研究の限界
PQBP1は、アルツハイマー病の研究でも注目されている分子です。過去の研究では、アルツハイマー病患者の神経細胞におけるPQBP1の減少や、シナプス関連遺伝子のRNAスプライシング異常が報告されています。
今回、高脂肪・高カロリー食を与えたマウスでもPQBP1の減少が確認されたことから、代謝状態の変化と神経変性疾患を結びつける研究の進展が期待されています。
しかし、今回の研究には明確な限界があります。
第一に、主な実験対象はマウスであり、人間の食生活にそのまま当てはめることはできません。
第二に、実験では高脂肪・高カロリー食を使用しており、脂肪の割合、総エネルギー摂取量、体重増加、血糖やインスリンの変化など、複数の要因が関係しています。
第三に、PQBP1の減少が関与することは示されましたが、アルツハイマー病の発症を人間で予防できるかどうかは確認されていません。
原著論文でも、ピオグリタゾンの認知機能への効果に関する既存の臨床試験では結果が一致していないことに言及しています。
マウスで認められた分子機構と、人間における予防・治療の有効性は、別の段階の科学的課題です。
7.栄養学の観点から考える高カロリー食の評価
今回の研究結果を日常の栄養管理に応用する際、注意したいのが「高カロリー」という言葉の扱いです。
食品のエネルギー量が高いことと、その食品が健康に悪いことは同じではありません。
人間が必要とするエネルギー量は、年齢、性別、体格、身体活動量、健康状態などによって異なります。成長期の子どもや運動量の多い人では、身体の成長や活動を支えるために十分なエネルギー摂取が必要です。
また、今回の研究で使用されたのは、高脂肪・高カロリー食という特定の実験食です。食品のエネルギー密度だけを独立して評価した研究ではありません。
したがって、「高カロリー食品を食べると認知機能が低下する」と解釈することはできません。
一方で、エネルギーの過剰摂取が長期間続き、肥満や糖代謝異常につながる場合には、健康上の影響を考える必要があります。
栄養管理では、食品を単独で評価するのではなく、摂取量、食事全体の構成、活動量、代謝状態を総合的に考えることが重要です。
8.研究を正しく理解するために必要な栄養学の知識
栄養学の情報は、食品の栄養成分だけを知っていても、十分に理解できるとは限りません。
今回の研究を例にすると、食事条件の変化から始まり、血糖やインスリン、細胞内シグナル、遺伝子発現、RNAスプライシング、シナプス機能へとつながっています。
これらを理解するには、栄養素の働きに加えて、消化・吸収、エネルギー代謝、ホルモン、臓器や細胞の機能など、身体の仕組みに関する知識が役立ちます。
もちろん、すべての分子名や反応経路を暗記する必要はありません。
大切なのは、新しい研究を目にしたときに、実験条件と結果を区別し、どのような仕組みが検討されているのかを理解することです。
また、研究対象が動物なのか人間なのか、観察研究なのか介入研究なのかによって、結論の受け止め方も変わります。
栄養情報を正しく活用するには、知識の量だけでなく、科学的根拠を読み解く視点が必要です。
今回の研究から得られた重要な知見
・高脂肪・高カロリー食を与えたマウスでは、神経細胞のPQBP1が減少した。
・PQBP1の減少は、シナプス関連遺伝子のRNAスプライシング異常や神経伝達機能の障害と関係していた。
・PPARγに作用する薬剤や関連分子の遺伝子導入により、マウスのシナプス障害や認知機能の低下が改善した。
・人間の認知症予防や治療への有効性は、現時点では確立していない。
栄養学的な結論
今回の研究は、高カロリー食品そのものを避ける根拠ではありません。食品のエネルギー量だけでなく、食事全体の内容、摂取量、身体活動量、代謝状態などを総合的に評価することが重要です。
身体の仕組みから栄養を学ぶ|栄養コンシェルジュ®という選択
今回の研究では、食品の摂取条件が、ホルモンのシグナル伝達や神経細胞の機能と結びついていました。
このような研究を理解する際に役立つのが、身体の仕組みから栄養学を学ぶという視点です。
一般社団法人日本栄養コンシェルジュ協会では、栄養を「暗記」ではなく「選択」につなげるための教育を行っています。
栄養コンシェルジュ®1ッ星コースでは、栄養素の働き、消化・吸収、エネルギー代謝などを学び、独自の食品カテゴリーマップ®を活用して、目的に応じた食品選択の基礎を身につけます。
2ッ星コースでは、細胞内代謝や臓器の働き、血液検査データの読み解きなど、より専門的な内容へと学びを深めます。
例えば、「糖質を摂取すると血糖値が上がる」という知識だけでなく、吸収された糖が身体の中でどのように利用されるのかを理解すること。
あるいは、「脂質はエネルギー源になる」という知識に加えて、脂質代謝と身体の働きの関係を考えること。
こうした学びは、栄養情報を判断し、目の前の人に分かりやすく説明するための土台になります。
栄養コンシェルジュ®は、管理栄養士などの国家資格に代わるものではなく、身体と食品の関係を独自の教育体系で学ぶ民間資格です。
管理栄養士・栄養士、スポーツトレーナー、健康指導者、そして日常生活に栄養学を役立てたい方まで。
食品の名前を覚える栄養学から、身体の仕組みを理解して選択できる栄養学へ。
新しい研究を正しく読み解き、実生活に活かす力を育ててみませんか。
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参考文献・公的資料
【原著論文】
Huang Y, Homma H, Yoshioka Y, et al. PQBP1-dependent alternative RNA splicing underlies high calorie diet-induced cognitive impairment. Molecular Psychiatry. Published September 12, 2026.
https://doi.org/10.1038/s41380-026-03868-x
【研究機関公式発表】
東京科学大学.高カロリー食が認知機能を低下させる仕組みを解明―鍵となるPQBP1の減少を発見、治療への可能性も―.2026年9月17日.
【共同研究機関公式発表】
帝京大学.高カロリー食によって認知機能が低下する仕組みに関する研究成果.2026年9月17日.
【栄養教育に関する公式情報】
一般社団法人日本栄養コンシェルジュ協会.栄養コンシェルジュ®養成講座.
※本記事は2026年10月時点の公開研究情報に基づいています。動物実験の成果は、人間の疾病予防・治療の有効性を直接示すものではありません。
11.よくある質問(FAQ)|高脂肪食・認知機能・栄養資格
Q1.高脂肪食は認知機能を低下させますか?
高脂肪・高カロリー食を与えたマウスでは、神経細胞のPQBP1減少やシナプス機能の障害が報告されています。ただし、今回の研究だけで、人間の高脂肪食摂取が直接認知症を引き起こすと結論づけることはできません。
Q2.PQBP1は脳でどのような働きをしていますか?
PQBP1は、RNAスプライシングの調節に関与するたんぱく質です。神経細胞では、シナプス関連遺伝子のRNAが適切に処理される仕組みに関わり、その機能低下が神経伝達の障害につながる可能性があります。
Q3.高カロリー食とインスリンにはどのような関係がありますか?
今回のマウス研究では、高脂肪・高カロリー食に伴う高インスリン状態と関連するシグナル経路が、PPARγを介してPQBP1の発現を抑制することが示されました。インスリンそのものが有害であるという意味ではありません。
Q4.ピオグリタゾンは認知症の予防薬になりますか?
今回の研究では、ピオグリタゾンによってマウスのシナプス障害などが改善しました。しかし、人間の認知症予防薬としての有効性が確立したわけではありません。認知症予防を目的とした自己判断での使用は適切ではありません。
Q5.脳の健康のためにカロリー制限をした方がよいですか?
今回の研究は、すべての人にカロリー制限を推奨する根拠にはなりません。必要なエネルギー量は体格や活動量などによって異なります。食事量の調整は、健康状態や栄養状態を踏まえて検討する必要があります。
Q6.栄養コンシェルジュ®では、どのような栄養学を学びますか?
栄養コンシェルジュ®では、栄養素の働きに加え、消化・吸収、代謝、臓器の働きなどを体系的に学びます。食品の知識と身体の仕組みを結びつけ、目的に応じた食品選択を考えることを重視しています。
Q7.栄養コンシェルジュ®の食品カテゴリーマップ®とは何ですか?
食品カテゴリーマップ®は、食品を栄養学的な特徴から7つのカテゴリーに整理する協会独自のツールです。食品の栄養成分を単独で評価するだけでなく、身体の状態や目的に応じて食品を選択する際に活用します。
Q8.栄養コンシェルジュ®は他の栄養資格とどう違いますか?
栄養コンシェルジュ®は、身体の仕組みから栄養学を理解し、食品選択に応用することを重視した民間資格です。独自の食品カテゴリーマップ®と段階的な学習体系を備えている点が特徴ですが、他の資格より優れていることを示す比較研究があるわけではありません。
Q9.管理栄養士が栄養コンシェルジュ®を学ぶ意義はありますか?
管理栄養士が既存の専門知識を整理し、食品カテゴリーマップ®や栄養コンサルティングの考え方を学ぶ機会になります。自身の業務範囲に応じて、食品選択の説明や栄養教育に応用することを目指せます。
Q10.栄養コンシェルジュ®を取得すると、どのような場面で活かせますか?
栄養コンシェルジュ®で学んだ知識は、健康づくり、スポーツ指導、栄養教育、日常の食生活など、幅広い場面で活用できます。身体の仕組みから栄養学を理解し、一人ひとりの目的に合わせた食品選択をサポートする力を養います。
栄養コンシェルジュ®のカリキュラムは、医学博士、医師、管理栄養士、調理師、臨床検査技師、臨床心理士、オリンピックメダリストなど、多分野の専門家が「現場で本当に役立つ栄養学」を目指して共同開発しました。知識の習得だけでなく、一人ひとりに合わせた実践力を養うことを重視している点が、多くの専門職から支持される理由の一つです。
栄養コンシェルジュ®は資格取得後も年会費・更新費が無料です。毎月の無料サロンで学んだ内容の復習、現場での疑問や悩みの共有・相談、 最新の栄養情報や考え方のアップデートができます。 資格を「取って終わり」にせず、学び続けられる・つながり続けられる環境として、多くの取得者に活用されています。
栄養コンシェルジュ®は、医療・スポーツ分野だけでなく、保育・教育分野でも活用されている実践型の栄養教育プログラムです。全国の保育士養成専門学校への導入に加え、食育や健康づくりへの関心が高まる中、主婦や会社員など幅広い層にも受講が広がっています。
日本栄養コンシェルジュ協会理事であり、北京オリンピック男子4×100mリレー銀メダリストの朝原宣治さんも栄養コンシェルジュ®を取得されています。競技生活で培われた経験に加え、栄養学を学び続けるその姿勢は、多くのアスリートやスポーツ指導者にとって大きな刺激となっています。現在では、競技力向上やコンディション管理を目的に、アスリートはもちろん、選手を支えるトレーナーやご家族などにも学びの輪が広がっています。
食品カテゴリーマップ®は、一般社団法人 日本栄養コンシェルジュ協会が開発した公式ツールです。 食品を「最も多く含まれる栄養成分」によって7つのカテゴリーに整理し、難しい栄養学をシンプルに理解できるよう設計されています。
教育機関・医療機関・スポーツの現場でも導入されており、栄養学を見てわかる形にした信頼性の高いツールとして広く活用されています。
※「食品カテゴリーマップ®」は、一般社団法人日本栄養コンシェルジュ協会が提供する栄養教育ツールであり、商標登録済みの名称です。
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