• ダイエット

パーソナルトレーナー必読|ケトジェニックダイエットの正しい使い方とリスク管理を徹底解説【科学的ガイド】

パーソナルトレーナーに求められる「食事法の翻訳力」
クライアントの目的は減量、ボディメイク、健康指標の改善など多岐にわたります。SNSで人気のケトジェニック(炭水化物を極端に減らし脂質を主燃料にする食事法)は確かに短期の減量や食欲抑制に寄与しますが、個体差と運動負荷、既往歴を踏まえた設計が不可欠。パーソナルトレーナーには、利点と限界を科学的に整理し、現場で“安全に最適化”して使い分ける力が求められます。

1. ケトジェニックの基本メカニズム

・ケトーシス(脂肪由来のケトン体を主要燃料にする状態)

目安:炭水化物20~50g/日、脂質70~80%エネルギー、たんぱく質適量。肝臓で脂肪酸が分解され、β-ヒドロキシ酪酸等のケトン体が生成されます。

・初期反応:体内グリコーゲン(水和して貯蔵)と水分が抜け、体重は早期に減少。一方、ケトフル(頭痛・倦怠・眠気)が出る場合があり、塩分・水分・カリウム・マグネシウムの調整で軽減します。

・適応:2~4週間で運動時の脂質酸化効率が上がる一方、高強度域(無酸素域)パワーはグリコーゲン依存のため頭打ちになりやすい。

パーソナルトレーナーの要点:

・目的が健康的減量や有酸素寄りの競技なら候補。

・高強度パフォーマンス至上や短時間の爆発的出力が必要な種目では、常時ケトは不利になりやすい。

・周期化(期間限定/フェーズ分け)で使う戦略が現実的。

2. 低炭水化物食との違い

・ケトジェニック:糖質20~50g/日。ケトーシスが目的。

・低炭水化物食:糖質50~130g/日。現実的で継続しやすい、社会生活に馴染む。

実務:減量の第一選択は低炭水化物〜適正糖質での総エネルギー赤字(TDEE比−10〜20%)。ケトは停滞打破や短期イベント前など限定運用が合理的。

3. 脂質戦略:量×質×タイミング

・推奨構成:総エネルギーの20~35%を脂質。ケト期は70~80%だが、不飽和脂肪酸中心(オメガ3・オレイン酸)に寄せる。

・避けたいもの:トランス脂肪、加工肉の過多、飽和脂肪の“積み増し”。

・女性クライアント:脂質はホルモン合成や月経周期の安定に関与。極端な脂質制限や急激な体脂肪低下は無月経や甲状腺負荷のリスク。

4. 食物繊維と腸内環境

低糖質・ケトでは食物繊維不足が起こりやすい。

・対策:葉物・海藻・きのこ、アボカド、チアシード/フラックスシード、低糖質ベリー。

・目標:1日25g以上(水溶性と不溶性のバランス)。

・便秘対策:水分30~35mL/kg/日、電解質補給、適度な歩行/NEAT。

5. サプリの“補助輪”設計

・基本:食事が基本、サプリは不足補完。

・候補:ビタミンD(骨・免疫)、B群(代謝補酵素)、マグネシウム(筋収縮・睡眠)、オメガ3(抗炎症)。

・留意:医薬品との相互作用、過剰摂取を回避。既往歴がある場合は医師に相談。

6. 脂質とLDL-C(悪玉コレステロール)

ケトでLDL-C上昇が顕著なタイプが一定数存在。

・モニタリング:総コレステロール/LDL-C/HDL-C/中性脂肪、Non-HDL-C、できればApoB。

・食事修正:飽和脂肪(バター・ココナッツオイル過多等)を不飽和脂肪(青魚・ナッツ・オリーブ油)にスライド。加工肉は抑制。

・個別差:遺伝背景(家族性高コレステロール血症等)を示唆する場合は専門医と連携。

7. 既往歴と禁忌・要注意群

・糖尿病治療中:低血糖のリスク。薬剤調整は医師主導。

・腎疾患:高たんぱく負荷は禁忌になり得る。eGFRに応じたんぱく質摂取量調整。

・妊娠・授乳、摂食障害歴、甲状腺疾患、脂質異常症のコントロール不良は慎重適応。

・アスリートのピーク期:常時ケトはピークパワーを損ねやすい。

8. トレーニングとの同期(栄養×負荷の周期化)

8-1. 目的別テンプレ

・一般減量(筋量維持):

 糖質:適正〜やや低(体重×1.5~3.0g/日)

 たんぱく質:体重×1.6~2.2g/日

 脂質:残差(20~35%)

 週2~3回の高強度レジスタンス+有酸素ミックス。

・短期絞り(イベント前2~4週):

 ケト導入→高強度日はターゲット糖質(トレ前後で30~60g/回)を点滴的に。

 連日ケト固定ではなく、“必要日にだけ糖質”の戦術投与(ターゲティッドケト)。

8-2. セッション栄養

・高強度日:トレーニング前/中/後に糖質(ブドウ糖、デキストリン等)を少量分割。

・低強度・回復日:脂質寄り、たんぱく質は一定、糖質は野菜・低GI中心。

・女性:黄体期(基礎体温が高い時期)は体温・食欲・むくみの変動に留意。鉄・マグネシウム・B群を意識。

9. 実践メニュー例(ケト期/低糖質期)

ケト期(目安:糖質20~30g/日)

・朝:ギリシャヨーグルト無糖+アボカド+ナッツ、小さじのオリーブ油

・昼:サーモンのグリル、葉物とオリーブのサラダ、オイルドレッシング、チーズ少量

・夜:鶏もも/白身魚のソテー、焼ききのこ、海藻サラダ、スープ

・間食:ゆで卵、オリーブ、プロテイン(無糖)

・電解質:塩・マグネシウム補給を忘れずに

低糖質期(糖質80~120g/日)

・朝:オートミール少量+卵、ベリー、無糖ヨーグルト

・昼:玄米少量+鶏胸、彩り野菜、大豆サラダ

・夜:白身魚/赤身肉、根菜控えめ、葉物多め

・トレ前後:バナナ半分 or ライス少量、EAA(必須アミノ酸)

10. 進捗モニタリング(パーソナルトレーナーの運用ステップ)

① 初期評価:体組成(筋量・体脂肪)、既往歴、服薬、女性は月経状況。

② 開始2週:体重・囲い値・主観疲労・便通・睡眠、必要に応じ血液(脂質・肝腎機能)。

③ 4~6週:停滞なら摂取エネルギー/歩数/NEATの見直し、ケト→低糖質へのソフトランディングも選択肢。

④ 12週:長期化は継続可能性と血液指標を再評価。周期化で代謝・心理をリフレッシュ。

11. よくある疑問Q&A(女性・健康安全性寄り)

Q. ケトで筋肉は落ちない?
A. たんぱく質体重×1.6~2.2g/日と高強度レジスタンスを担保すれば維持可能。ただし高強度パワーは糖質補填が有利。

Q. いつまで続けるべき?
A. 目的別のフェーズ栄養が原則。減量初期や停滞打破の2–8週間、大会前短期など。長期固定は血液指標を見ながら是々非々。

Q. LDLコレステロール値が上がった
A. 脂質の質を見直し、不飽和脂肪中心に転換。必要なら専門医へ。

Q. 便秘・倦怠感
A. 食物繊維・水分・電解質の補正で多くは改善。長引く場合は中止を含め再評価。

12. レッドフラッグ(即時中止/医療連携)

・失神・強い動悸、著明な倦怠、持続する胃腸症状

・急激な体重減少(>週1.5kg)、無月経、重度の気分変調

・LDL-Cの著増、肝酵素・腎機能の異常
→ 直ちに中止し、医療機関へ。

まとめ

ケトジェニックは、短期の減量・食欲抑制・有酸素寄りの脂質酸化向上に強みがある一方、高強度パワーの維持や血中脂質の悪化タイプなどの留意点も併せ持ちます。

パーソナルトレーナーが担うべきは、流行の是非を論じることではなく、目的・競技特性・健康状態を踏まえて最適な栄養の“周期化”をデザインすること。多くのクライアントには、まず低炭水化物〜適正糖質+総エネルギー赤字が安全で再現性の高い第一選択となり、停滞やイベント前に期間限定ケトを用いるなど、戦略的な使い分けが現実的です。

運用中は体組成・主観疲労・便通・睡眠を追跡し、必要に応じ血液指標で安全性を担保。女性では月経・鉄・マグネシウムを意識し、便秘や倦怠には食物繊維・水分・電解質で即応します。

栄養はトレーニング成果の“等式”の半分です。より精緻な設計と説得力を武器にしたいパーソナルトレーナーの皆さまは、栄養コンシェルジュ®で代謝・体組成・血液・ツール運用までを一気通貫で学び、誰が担当しても再現できる食事戦略を自分の言葉にしてください。明日のセッションから、クライアントの“変化の速度”が変わります。

Nutrigenceスタッフ

栄養や健康に関する最新情報をお届けするメディアサイトNutrigence®(ニュートリジェンス)スタッフです。